機械式時計の帯磁を科学する


機械式時計ではよく「帯磁」が問題になります。機械式時計を強い磁力にさらしてしまうと内部の金属部品が磁気を帯びてしまい、精度が大きく悪化するというものです。現代の生活の中には磁気があふれています。携帯電話はもちろんのこと、モーターで動く電車も磁場を作り出します。

”Practical Watch Repairing”(洋書)には帯磁について以下のように記されています。

   

また、"機械式時計解体新書"(和書)には現代の生活において遭遇する様々な機械が発する磁界の強さに関する情報が記載されています。

  

しかしながら、実際の自分生活で何がどの程度危険なのかについてはいまひとつ分かりません。
そこで、実験を行って確認することにします。

実験台はお馴染みのブレスレットを手で引きちぎったロレックスのコピーです。ムーブメントは機械式ですが、もちろんロレックス製ではなく、Made in JapanのMIYOTA製です。

 

実験の手順は以下の通りです。

  1. 時計が帯磁していないことを方位磁石で確認する。

  2. びぶ朗を使って時計を正常な状態に調整する。

  3. 帯磁する可能性がある状態にする。

  4. 時計が帯磁しているか方位磁石で確認する。

  5. びぶ朗で時計の精度に変化があるか測定する。

上記のプロセス3から5をプロセス3の内容を変えながら繰り返します。実験対象の候補は以下の通りです。

 

対象物

状態

直流磁界

交流磁界

1

ドライヤー

電源オフ

無し

2

 

電源オン

3

電気髭剃り

電源オフ

無し

4

電源オン

5

ノートPC
(HDD格納部付近)

電源オフ

無し

6

 

電源オン

7

ノートPC
(スピーカ格納部付近)

電源オフ

無し

8

 

電源オン

無し

9

WiFiルータ

電源オフ

無し

無し

10

 

電源オン

無し

11

折畳式携帯電話
(永久磁石格納部付近)

電源オン

12

ハブ固定用マグネット


(特強)

無し

とします。実験素材となる機械式時計は一つとしたいので、影響が弱いと思われるものから進めます。私は実際に影響があるのは11,12のみであろうと考えました。特に、交流磁界については磁場の向きが高速に入れ替わることになるので、時計を帯磁させるには至らないというのが、理工学部 電気工学科出身の私の仮説でした。実際、消磁器は強力な交流磁界を利用して、帯磁したものを消磁します。 (強い交流磁界から弱い交流磁界に変化させていくことにより消磁します。)

実験素材となる偽物ロレックスは、基本的には本物と動作原理は同じなので、正確な検証が期待できます。(部品の素材は異なる可能性があります。)

1

 実験素材が帯磁していないことを確認

2

最初に、びぶ朗で精度を正しく調整。

 

3-1

 対象物が直流磁界を発生させていることを確認。(赤いほうがNから大きくずれています。)

3-2

時計を接触させて、帯磁を試みます

4

時計が帯磁したか方位磁石で確認します

5

びぶ朗で精度に影響が出たか確認します。

さっそく結果を見てみましょう。

プロセス

対象物

状態

直流
磁界

交流
磁界

実験結果
方位磁石による測定

実験結果
びぶ朗による精度測定

1

ドライヤー

電源オフ

無し

影響なし

影響なし

2

 

電源オン

影響なし

影響なし

3

電気髭剃り

電源オフ

無し

影響なし

影響なし

4

電源オン

影響なし

影響なし

5

ノートPC
(HDD格納部付近)

電源オフ

無し

影響なし

影響なし

6

 

電源オン

影響なし

影響なし

7

ノートPC
(スピーカ格納部付近)

電源オフ

無し

影響なし

影響なし

8

 

電源オン

無し

影響なし

影響なし

9

WiFiルータ

電源オフ

無し

無し

影響なし

影響なし

10

 

電源オン

無し

影響なし

影響なし

11

折畳式携帯電話
(永久磁石格納部付近)

電源オン

影響なし

影響なし

12

ハブ固定用マグネット


(特強)

無し

帯磁を確認

進み方向の変化を確認

結果を見ていると帯磁が確認され、精度に影響が出たものは12番のみとなりました。やはり、強力な静磁界を作り出す永久磁石が一番危険であるといえそうです。

中央部に見える小さなマグネットですが、非常に強力で離れた方位磁石にも強い影響を与えます。(本来であれば、針の赤い部分が上部のNに重なります。)

マグネットを時計に接触させます。

マグネットをもって時計を持ち上げられるほど強力です。

方位磁石で検証します

時計に近づけていくと・・・

強力に帯磁していることが確認できました

びぶ朗の測定はでは、70秒程度の進み傾向を確認できました。 帯磁の場合は遅れではなく、進み傾向として影響が出ることが多いようですので、まさにその症状といえます。

意外だったのが、11番の折畳式の携帯電話に埋め込まれているマグネットで帯磁の影響がなかったことです。以前、クレジットカードの磁気ストライプをこれで壊してしまった経験があるのですが、今回は影響がありませんでした。



折畳式の携帯電話の携帯電話のマグネットでは帯磁確認できず。精度も問題なし。

シースルーバックの場合はこの実験よりもリスクは大きいでしょう。

総合的にみるとあまり帯磁については過剰に神経質になる必要はないものと思います。注意すべきは強力な永久磁石です。 鞄の止め具に強力な永久磁石が使われている場合があるので、これは要注意です。

また、中レベルの交流磁界しか生み出さない電気髭剃り等の交流磁界発生機器を消磁器として使用することは不可能ということです。もし、帯磁してしまった場合は強力な交流磁界を発生させることができる専用の消磁器を利用するほかなさそうです。消磁器を利用した実験もそのうちにやってみたいと思います。
サイトのトップへ戻る